日本刀の樋:単なる溝ではないのである
2021/11/04
樋は、刀身の彫刻の一種で元来の目的としては軽量化と曲がりにくくするためのものでしたが、実用面だけではなく装飾的な要素も時代を追うごとに追加されていきます。樋の幅や深さによっても時代や流派の特徴があり、例えば幅の広いものは、筑後国三池や備前国光忠に多く、狭いものは相州ものに多いと言われています。樋が浅いのは皿樋とも呼ばれていて山城の来国次などでも見られますが、三池典太の特徴と言われるくらい三池ものに多いです。ここでは樋の種類について説明しましょう。
1.棒樋
通常樋といえばこの棒樋を指すことが多く、また最も多い樋と言ってもいいでしょう。鎬地を真っすぐに掻いたものですが、厳密にいうと片チリと両チリに二種類があります。片チリとは樋を掻いたあと鎬地の部分を棟側に残したものを指し、両チリは両方残したものを指します。鎬地に同じ太さで二本並べて掻いたものを二筋樋といい鎌倉期に多く、特に相模の貞宗の作品は有名です。まれに三本並んだ三筋樋というのもあります。
2.添樋
同じ太さではなく棒樋に沿ってもう一本細く掻かれた樋もあり、これを添樋(そえひ)といいます。その添樋が小鎬に入って棒樋の上部を覆うようになったものを連樋といい備前ものに多いです。
3.菖蒲樋
二筋樋の上部がつながってその形状が菖蒲に似ていることからこの名前があります。来派の国光や則国をはじめ筑後の三池や相模の秋広にも見られます。菖蒲樋の片方の樋が途中で切れてしまったものについては喰違樋と呼ばれています。
4.腰樋
棒樋が腰元に短く掻かれたものを指し、棒樋についで歴史的にも古い樋のタイプです。腰樋は愛染明王を表すと言われています。
5.薙刀樋
名前の通り薙刀に多いのですが、鵜首造の刀身にも見られます。
6.掻流し樋
樋をハバキ元で止めずに茎にまで掻かれたもので、茎の途中で樋がなくなるものを指します。一方茎の先まで茎の先までずっと掻いたものは掻通し樋といって区別します。
7.留樋
留樋は、留の形状が角のものを角留、丸いものを丸留と言います。角留は古備前友成や鎌倉中期の備前ものに見られ、だいたい時代の古いものに多く見られます。一方の丸留は鎌倉中期以降の備前ものや室町末期全般のものにも見られ、新刀期のものは一般的に丸留が主流です。