日本刀の疵:折り返し鍛錬の証
2021/11/05
日本刀は玉鋼を材料とし何回も折り返し鍛錬をする過程において、不純物がどうしても排除されなかったり、鍛錬や焼き入れ時のちょっとした過失が疵になってしまう場合があります。この疵は実用上や鑑定上に大きな欠陥になるかどうかというところです。以前に比べると実用上価値よりは美術的価値に趣をおくようになってきています。また矢疵のようにかえって喜ばれる疵もあります。
1.刃切・烏口
焼刃に亀裂が入り刃に達しているものを刃切れといいます。そしてこの刃切れが切先にある場合は烏口として別名で呼ばれます。実用上ではいずれ大きな欠陥ですが、鑑賞上では致命的というほどではないという扱いです。
2.刃搦み(はがらみ)・月の輪
刃中の鍛え肌に沿って焼割れのあるものを刃搦みといいます。これが切先にあらわれると三日月といいます。刃搦みは表裏の両側に出る場合と片側にしか出ない場合もあります。疵でありながら月の輪という滋味深い名称で昔の日本人の美意識が現れています。
3.しなえ
刀をよくみると地、刃、鎬、棟などに横になってしわのような筋が見えることがあります。これをしなえと呼んでいるのですが、このしなえがたくさん集まっている場合はムカデしなえ、変色して煙がかかったように見えるしなえを、もえしなえと呼んでいます。いずれの場合でも、しなえがある刀身は、斬撃時にその部分から曲がる可能性がある上に、美観上でも価値を下げるものです。
4.鍛え割
折り返し鍛錬の鍛接が不十分な場合に割れが生じます。これは鍛え割れと呼びますが、刃、地、鎬すべてに現れます。鍛え割れはたいていの場合堅割れが多いので特別に大きなものでない限りは、実用上差し支えありません。柾目鍛えや柾混じりの強い刀ではこの堅割れを「柾割れ」といって疵とみなしていないこともあります。繁慶の刀では特色としてみなされているほどです。
5.ふくれ
折り返し鍛錬の際の鍛接が不十分だと気泡が入ってしまう場合があります。ちょうど大豆や小豆ぐらいの大きさで膨らんで見えるのですが、これをふくれと呼びます。ふくれが研ぎによって破れた状態はふくれ破れといい、ふくれの内側の錆びた鉄が現れるので嫌われ価値も下がってしまいます。実用上では使用に差し支えあるものではないとはいえ見た目があまりいいものではないという理由で、埋金をすることが多いです。
6.心鉄
心鉄は、刀が研ぎ減って皮鉄がなくなったときに現れる部分でありますが、まれに下手な鍛冶の作刀や大量生産された刀にははじめから心鉄が出ているものもあります。この類は粗悪品という扱いですが、来派系の鍛冶では物打ち辺りに心鉄が出ているものもあります。これは心鉄がまっすぐではなく歪んではいっているために皮鉄寄りの部分を研磨したときにでてきます。この場合はその裏側は綺麗な状態で、「来地鉄」と呼ばれていて来一門の特徴とされています。
7.打ち込み
刃中や地、鎬などに錐の先で突いたような小孔があります。これは素延べや火造りの作業中に表皮の酸化鉄が剥落して皮鉄に混ざったものを鍛造したことで、鉄肌が皮鉄を突き通してしまいます。これを打ち込みと言いますが実用上障害となるものではないのですが、美観が損なわれます。
8.矢疵・切り込み疵
戦闘中に矢を払ってできた疵を矢疵、相手の刀を受けたときに切り込まれた疵を切り込み疵といって、疵であって疵という扱いをうけない、むしろ喜ばれる疵といってもいいくらいの疵です。切り込み疵のなかには相手の刀の刃がこぼれて食い込んだままになっているものもあります。いずれにしても激戦に耐えた戦歴を物語る記念の疵であり、これだけの使用にも関わらず他の損傷がないということで強靭さを証明するもとして、武士たちは好んだと言われています。
9.刃こぼれ
矢疵や切り込み疵と同様に戦闘の衝撃で刃が欠けた状態を刃こぼれといいます。しかしながらこちらの疵は実用上と美観上の観点から大きく価値をさげてしまいます。