ONLINE KENDO ACADEMY: Ryo Murase
04 17, 2021
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全日本学生選手権を制したのは日本体育大学2年のときだった。
「優勝した瞬間のことはあまり覚えていなくて、ああ優勝しちゃったという感じなんですけれど、試合を見返してみると、足も動いていて前に出ている試合が多かった、今の剣道よりも攻めているなという印象はありますね」
と笑う村瀬選手は、神奈川県横浜市に生まれた。3歳から水泳をしていて、母に何かもうひとつ習い事をしなさいと言われ、近くの小学校で剣道が行なわれていたので入門した。「剣道よりも水泳の方が好きだった」というが、剣道をやめたいと思ったことはないという。
下瀬谷中学校時代、2年生までは横浜市大会止まりで県大会にも出たことがなかったが、3年生のときに初めて県大会に進むと、全国中学校大会予選に勝ち、本大会でも全国団体3位という結果を残す。だが日体荏原高校に進んでからは全国レベルでの活躍はなく、優勝した全日本学生選手権も関東大会で敗者復活戦を勝ち上がっての出場であり、まさに伏兵の大金星といえた。日体大の選手として初の優勝でもあった。一気に全国区の選手となると、翌年も同大会2位と実力を証明した。
そして同じ学年である筑波大学の竹ノ内佑也とともに世界選手権大会に出場したのが大学4年のときだった。
「初めて強化合宿に参加したときは稽古が本当に厳しくて、学生は数名しかおらず、そうそうたる先輩方がいらっしゃる中で、自分はここにいていいのかなという気持ちがありました。稽古についていくのが必死だったのですが、先生方先輩方に引っ張り上げていただいて、一生懸命やらせていただいたら合宿の最終選考まで残らせていただいたという感じです」
同年代のトップランナーとして活躍し、警察官などの道もある中で教員という職業を選んだのは、中学生の頃から志望していた職業でもあり、「自分自身の剣道をしていく中で生徒たちに伝えていきたい」という思いがあったからだという。
生徒たちにはもちろん日本一になって欲しいと思っている。
「日本一というのは並大抵の努力で成し遂げられないことは分かってはいるんですが、自分自身が経験したことは生徒たちにも経験してもらいたい」
だが、目指すのは単に勝つことだけではない。日本一を目指す中でも、そのプロセスを大切にしたいと村瀬さんは語る。自分自身が目指す剣道、そして生徒たちにも目指してほしい剣道は、「美しい剣道」である。
「美しい剣道、あるいは正しい剣道。その中で勝負の厳しさを追求していきたいと思っています。構えが崩れない、充実した気構え身構えをもって技を打ち込んでいく、攻め勝って打っていくというところを自分自身も体現しながら、生徒たちにも体現してもらいたいと思います」
Table of Contents
1.Opening
Watch video: https://gen-universe.com/ja/video/559
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日本体育大学桜華中学・高校の教員を務める村瀬諒さんは、
2013年、日体大2年のときに全日本学生選手権を制覇し、
2年後には世界選手権に現役学生として出場したという剣歴を持つ。
中学生の頃から教員を目指していたという村瀬さんは、
自分が経験した日本一を生徒たちにも経験させたいと気持ちを持ちながらも、
美しい剣道、あるいは正しい剣道を体現して欲しいとも言う。
それは教員としての、自分自身の剣道のポリシーでもある。
今回の技術解説動画は、自らが実践している剣道の解説でもあり、
中高生に指導していることでもある。
ときには伝統的な教えと少し説明の仕方が違ったり、
誰も指摘してこなかったような点の説明もある。
熾烈な戦いの場に身を置き日本代表まで経験した剣士ならではの、
まさに目からウロコのアドバイスが満載だ。
2.About Wearing the Uniform and Bogu
Watch video: https://gen-universe.com/ja/video/560
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「防具が大好きなので」という村瀬さん。それだけに着装については細かいところまで気を配っている。
たとえば垂れの着け方。とくに気にしない人も多いが、「構えたときの安定感」が一番際立つのが垂れの着け方であり、着ける位置や、着けたあとで左右の大垂れを前に出して広げるようにしてかたちを整える。
面手ぬぐいを着けるときは必ず文字が自分の方に向くようにして着ける。手ぬぐいには所属している道場や団体の座右の銘などが書かれているので、そういう気持ちでこれから稽古する、あるいは試合をするという意味があるという。
面を着ける時も、紐が傷んでしまったり、道具が長持ちしないような着け方をしている人がいる、と村瀬さんは指摘する。相手に与える印象を左右し、道具を大切に長く使うことにもつながる着装のポイントは必見!
3.Zenshin-kotai Shomen-suburi
Watch video: https://gen-universe.com/ja/video/561
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一拍子で打つことはもちろんだが、村瀬先生が一番意識しているのは、左拳の位置だ。
「竹刀を振ろうとすると、どうしても剣先が横に寝てしまったりパワーで振ろうとしてしまうのですが、左拳にポイントを置いて、振り上げるときは左拳を頭の上に持っていくという意識で行なうと、スムーズに上がるようになると思います」
村瀬先生が素振りのとき手の内の作用で特に意識しているのは、右手の親指。ここがゆるんでしまうと、剣先が下がらず力が入らない。振り下ろしたときに親指の指先がクッと入る(竹刀を押し込むような動作)ことで剣先が速く振り下りることにつながる。
重心については具体的な数字で解説する。「左に7、右に3、または左に7.5、右に2.5ぐらいの割合で体重をかけている」という。
「右足に重心がかかっている子が特に女子に多いんですけど、すると前に出るときには必ず重心が一度後ろに行ってからでないと出られないので、その分遅れるんです」
基本的な素振りだが、実戦に直結するチェックポイントがたくさんある。
4.Zenshin-men-suburi
Watch video: https://gen-universe.com/video/603
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「前進面素振りで一番意識しなければいけないのは左足だ」と、村瀬先生は強調している。左足に重心を乗せ、左足で身体を送り出すことができていない人が意外に多いという。
そして元の位置に戻るときは、日本剣道形一本目と同じ要領で、相手が面を打って来るのを抜くようなイメージで下がる。そうすると左足にまた重心が残るようになるのだ。
この前進面を速くしたのが早素振りだ。しかし速くなると重心移動が正しくできず、飛びはねるように動いてしまう人が多い。だから、最初はゆっくりでいいから、左足にしっかり体重を乗せて構え、左足で蹴ることを意識するようにする。
もうひとつのポイントは「関節」である。左足の膝を伸ばせという指導が一般的だが、村瀬先生は逆に、伸び切ってしまうと動けないので「関節をゆるめる」ことが大切だと言う。このコツを知れば、まったく新たな感覚で動くことができるかもしれない。
5.Large Men-uchi
Watch video:https://gen-universe.com/video/604
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基本となる大技の面打ちは、「まずは遠間から体を大きく使って打つこと、そして打ち抜けた後も足を大きく使うことが大切だ」と、村瀬先生は強調している。
「手と足を合わせて一拍子で振る、という指導もよくありますが、私はまず身体を大きく使って、振り上げた状態から振り下ろす、というかたちで指導しています」
もう一つ大切なのは、遠間から一歩入って物打ちが相手の打突部位に当たるように、自分の位置をよく確認しながら行なうこと。近すぎると間合いが詰まって元打ちになってしまう。基本の段階から有効打突になる打ちを意識して行なうことが大事なのである。
6.Small Men-uchi
Watch video:https://gen-universe.com/video/605
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小さく打つ面打ちは実戦で使われることが多く、誰もが一本にしたい技である。
村瀬先生はまず、とても大切なことを指摘する。多くの人が意識せずに左足を継いでから、つまり動いてから打っているが、自分では継いでいないと勘違いしているというのだ。まず左足を動かさずに一足で打つよう意識してほしいと言う。
もう一つ、目からウロコのアドバイスは、「そんなに遠くまで跳ばなくてもいい」という言葉だ。
「足を80cm前に出せば面は届くので、あまり遠くに足を出すという意識は私自身もしていません。畳一枚越えるようなイメージ、大股ぐらいのイメージで行なうといいでしょう。逆にそれ以上出すと、打った時に崩れたり体が残ったりしてしまいます」
そのほかにも、振りかぶるときに竹刀を立てず、相手の竹刀に自分の竹刀が乗った状態から最短で剣先を相手の頭の上に運ぶというイメージで打つこと。当たる瞬間は手首を使うのではなく指先を使って締めることなど、より正しく有効な面打ちのための貴重な教えが聞ける。
7.Kote-uchi
Watch video:https://gen-universe.com/video/606
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小手打ちの場合も、遠間から気を充実させて間に入ること、打ったときに指先で締める感覚などは、面打ちと同じ要領である。違っているのは機会のとらえ方だ。
「相手との剣先のやり取りの中で、押さえたらどのくらい竹刀が返ってくるか、乗ったらどう反応するかなど、手元と剣先の動きを見て技を出します。相手によって反応が違うので、相手の竹刀が返ってくる幅に合わせて、最後にどこに剣先を持っていくのかを意識して打っています」
と村瀬先生は説明する。
また、身体の移動の仕方については、「打った瞬間に顔と顔がぶつかるようなイメージで身体を入れていく」ことを意識すると良いと言う。また、まっすぐ身体を入れていくことも大切だ。
8.Tsuki
Watch video:https://gen-universe.com/video/607
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突き技は手を伸ばして突くものだというイメージがあるが、手をあまり伸ばさないことがコツであり、体をまっすぐ入れていくことが最も大切だと村瀬先生は説く。
「手を伸ばしてちょっとでもぶれてしまうと外れることにつながります。体をまっすぐ入れていけば諸手突きは当たると思います。意識するのはそこです」
突きの機会としては、表からのオーソドックスな突き、表を攻めて相手が攻め返してきたところを裏から突く、表を攻め、次に裏を攻めて、相手の手元が浮いたところを突く、などのさまざまなパターンについて説明している。
「しっかり定まって突けるようになってくると、体の入りもよくなってくる」と村瀬先生は突き技の効果について解説する。苦手な人も多い突きだが、逆に得意技にするためのヒントをたくさん与えてくれている。
9.Degashira Men
Watch video:https://gen-universe.com/video/608
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出頭面は、表から打つ場合と裏から打つ場合がある。
「剣先のやり取りの中で、表からとらえられる場合と、裏からの方が乗りやすい場合があります。でも、竹刀が裏にいった時でも自分が真ん中に正対していないと小手や胴を打たれてしまいます。表からでも裏からでも、必ず上から乗るように心がけます」
と村瀬先生は解説する。さらに、足の出し方、踏み込む位置も重要なポイントであると説明している。
悪い例、うまくいかない例についても詳しく解説している。相手が先に入ってきて、出遅れた状態で技を出したり、攻められて下がったところで出すのでは、うまくとらえられない。また、あごが上がってしまうと竹刀が下りなくなってしまうので、相手に面をとらえられてしまう。
さらに、剣先の攻防の中で相手に先に入られてしまった場合は、無理に出ばな面を狙わない方がいいと村瀬先生は言う。そういう場合の実戦的な対処法も紹介している。
10.Degashira Kote
Watch video:https://gen-universe.com/video/609
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出頭小手(出ばな小手)は試合でもよく使われ、一本になりやすい技なので、ぜひ身につけて武器にしたい。
出頭面と同様、遠間から気の充実をはかって技を出すことが大切だが、そのときに剣先で相手の竹刀の上に乗っておくことがポイントだと村瀬先生は言う。そうしておけば自分の気の充実がまだはかれず出られないタイミングで相手が来ようとしても、押さえられているので出ることはできない。
また、出頭小手に限らず小手技は、逃げながら技を出してしまうと、鍔に当たったり、そのまま面に乗られてしまい面が有効となってしまう場合がある。それを避けるためのポイントを村瀬先生はこう話す。
「できるだけ自分の前でとらえること、体を前にぶつけていくことを意識して私は小手を打っています」
11.Men Kaeshi-do
Watch video:https://gen-universe.com/video/610
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面返し胴には、自分から攻め勝って相手を引き出して打つ胴と、自分が攻め勝っている状態だが引き込んでおいてさばく胴の二種類がある、と村瀬先生は解説する。
「状況次第で使い分けますが、やはりできるだけ前でさばくという意識を持った方がいいでしょう。引き込んで胴を出すと、面に乗られて面が有効とされてしまうことがあるからです」
面に対しては抜き胴という技もあるが、やはり竹刀で防ぐ分、返し胴の方がリスクは少ないと村瀬先生は考えているそうだ。胴技の軌道については、受けたところから左胴に向かってまっすぐ落としていくというイメージで打つ、回すような軌道だと平打ちになってしまう、と説明している。
また、村瀬先生は相手の面を竹刀の表で受けて、そこから下ろして相手の左胴を打つ、というちょっと変わった技を使っているという。その技を使う意味とは・・・。
12.Men Kaeshi-men
Watch video:https://gen-universe.com/video/610
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相手が面を打ってきた場合にどう反応するか。村瀬先生はこう話す。
「受けっぱなしにならないことが一番大切です。反応としては返し胴もあれば面もあり、いろんな技があります」
面返し面には、相手が面を打ち切れていない状況で返して面を打つという方法があり、受けて胴に誘い相手の竹刀が下りてきたところを面に行くという打ち方もある。さらには裏に返すのではなく、表で受けて表からすり上げ技のように面を打つこともできる。そういったさまざまな反応の仕方を村瀬先生は実践してみせる。
この技は「当たらなくてもいい」のだと村瀬先生は言う。面返し面が正確に当たらなくても、相手に対しては圧力がかかる。確かにそう考えれば取り組み方が変わってくるだろう。受けっぱなしにならずに表でも裏でも技を返すという意識が持てるようになれば、自分の剣道が確実にレベルアップする。
13.End Credits
Watch video:https://gen-universe.com/video/612
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稽古に対しての取り組み方で大切なのは、「一つの目標に絞って稽古すること」だと村瀬先生は説く。
「たとえば今日は指先を意識して技を出すとか、左手の位置を気にして技を出すとか、何か一点に絞って稽古をすればいいと思います。そして稽古が終わったあと、今日の稽古は何点なのか自己評価をする。その日の課題ができていなければ次回の稽古に持ち越し、できていたら次のステップに進む。私はそういう段階を踏んで稽古に取り組んでいます」
そして今、村瀬先生自身が心がけているのは、「どんな相手に対しても自分自身の剣道を変えない」ということだ。
「ちょっと合わないタイプの人、なかなかつかめない相手に対しても、自分自身の剣道を曲げないでどうつかまえていくのか、というところを意識しながら取り組んでいます」
最後に村瀬先生は「一回一回の稽古を大切にしてほしい」とメッセージを送っている。