『稽古潜入』日本体育大学桜華中学・高等学校
2020/12/15

動画はこちらから→https://gen-universe.com/ja/video/203
<村瀬 諒先生プロフィール>
出身:神奈川県横浜市
所属:日本体育大学桜華中学・高等学校
出身高校:日本体育大学荏原高等学校
出身大学:日本体育大学
主な功績: 全日本学生剣道選手権大会優勝/世界剣道選手権大会個人ベスト8/全国教職員剣道大会個人優勝/全日本都道府県対抗剣道優勝大会優勝
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東京都東村山市にある日本体育大学桜華中学・高等学校。
剣道部の監督を勤めるのは、村瀬諒監督(五段・27歳=2020年取材時)である。
すでに2019年には当校の時任心選手が第49回全国中学校剣道大会個人戦で準優勝に輝くなどの戦績を残しているが、村瀬監督が就任した5年前はほぼ休部状態で、剣道部が再開したときは初心者の部員1人だけだったという。そこから急激な成長を遂げている最中である。
村瀬監督は中学も高校も日本一という大きな目標を掲げているが、「日本一というのは最終的な目標であり、今教えているのは正しく、美しい剣道」だと言う。自身が日本一になった経験を持つ監督だが、生徒に伝えたいのは勝つことだけではない。
当校は、現在の部員は中学、高校生とも9人ずつという日本体育大学桜華中学・高等学校の稽古に潜入した。
1.素振り
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ウォーミングアップを終えて、まず行なったのは木刀を使っての前進後退上下素振り、続いて前進面素振りだった。
「どんなことがあっても左足の引きつけは早くしなければダメ。前進面も振り下ろして戻るときがダラダラになっている。振り下ろしたら、抜くイメージで元に戻る。そこから左足に重心を乗せておいて、左足でしっかり入る。押し出すようなイメージで。よくない素振りを何回やっても悪い癖がつくだけ。素振りはかたちづくりなのだから、それを意識してやらないと悪いかたちがついてしまうよ」
と村瀬監督は部員に指導する。
続いて竹刀を持っての早素振りに移る。
「重心移動がしっかりできないと、面を打つときにも体が前に出ないわけだから、左足に重心をしっかり乗せた状態から足を運ぶ。そこをちゃんとしないと左足が前に出てしまったり、引きつけられずに残ってしまう。早素振りがちゃんとできないと、面を打ったときに左足が跳ねてしまうよ」
剣道の基礎づくりとして、重心移動の大切さを強調する村瀬監督。それでいて、素振りのための素振りではなく、実戦での打突に結びつくような意識を持つように仕向けている。
「早素振り100本!」と高校主将の雨田美七海さんから号令が飛ぶ。
2.切り返し
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礼をしたあと、体を大きく使って大技の面を3本打ち、切り返しを行なう。まずは直接相手の面を打つ切り返し。ここで村瀬監督が強調していたのは、竹刀を振り上げておくこと。
「(動きながら)上げて打ったら2拍子になる。上げておいて体を動かせば一拍子で打てる。上げておいて面。振りかぶって、前に出て、面。単純なんだけれどその単純なことができないのが剣道だ。本当にちょっとしたところだけど、それを一つひとつ当たり前にできるようにすることが難しいんだ」
続いて一般的な相手の竹刀を打つ切り返し。ここで村瀬監督は元立ちの大切さを語りかける。
「お互い気力をぶつけ合うべきところで、ぶつけ合わない状態から空けて打たせちゃう。ただ格好だけになっている。優しさで、『はーい、よし。はい頑張れ』って空けちゃう人が何人かいるけど、その優しさは必要ない」
試合において、全然気合が入っていないのに打っていったら出鼻を打たれたり、返されたりしてしまう。それは切り返しの場面でも一緒で、元立ちは相手の気が入っているかどうかを見て、気力が充実したところで空けてあげるようにしなければ勉強にならない。そこは元立ちにとっても、打つ側にとっても勉強だと村瀬監督は生徒たちに説く。
「30本切り返し!」と雨田主将が号令をかける。
3.打ち込み稽古・技の稽古
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まずは大技の面の打込稽古。
「ゆっくり大きくやっているんだけれども、メーンって打った後で縁が切れちゃうから、見ている人からしたらダラダラやっているようにしか見えない。自分の姿がどういうふうに今映っているのか、そこを考えろ。自分の見え方が考えられない者は、試合でも絶対に勝てない」
各大会で数々の修羅場をくぐり抜けてきた村瀬監督ならではのアドバイスだ。
面のあとは、面から引き面、引き小手、引き胴、そして面という連続の打込をはさんで、両手突きの稽古に移る。
「何回も言うけど、元立ちは『はい突いて。はい突いて』ではダメ。休憩じゃなくて自分が(試合を)しているつもりでやらないと。『いつでも打ってこい、自分もいつでも突くんだ』という気持ちでやらないと。それがないと試合もできない。たとえば次鋒が先鋒戦を見ていて、自分でやってる気になれない者は絶対チームにいてはダメ。お前たちのやっていることはそれと一緒だよ!」
村瀬監督は実戦と同じ緊張感を、すべての稽古に求める。
続いて面を打って体当たりの稽古。
「面を打ったら体を反らして自分からストップしてしまっている。この稽古の本当の意味はグーンと前に出る力をつけるためにやっているんだ。相手が詰めてくれば面を打った瞬間にバーンと当たる、相手に押されてもひかないというつもりで前に出ていかないと、やっている意味がない。稽古の一つひとつに意味合いをつけていかないと、逆にマイナスの稽古になってしまうよ」
さらに「右足を出しながら面打ち」の稽古になると、「だいぶうまくなってきた。しっかり自分の体が運べているからいい」と、村瀬監督から初めて部員たちを褒める言葉が出た。
「自分が足を出しておいて、崩れないところでちゃんと打突できることが大切。自分が打ったところで崩れたのでは一本にならない。面は一番遠くにあるし、崩れが大きく出る技でもある。崩れないで打つことが一番大切なこと。崩れて何本打ってもしょうがない」
さらに高い意識を植え付けるように、村瀬監督は言葉を継いだ。
4.出頭面、出頭小手、返し胴
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この後にじっくりと時間をとって行なっていたのが出頭面、出頭小手、返し胴の稽古だった。
まずは出頭面。
「遠間でどれだけ気が充実して、気で相手を跳ね返すように『下がれ』っていうような気持ちで入っていくことが大切。それがただなんとなく入って面を打っているから、全部かぶってしまう(相面になってしまう)。もう一点、相手の上にいないとダメ。どんなに大きい相手でも、自分が小さくなってしまってはいけない。自分の体が小さくても、相手よりも大きく、相手の剣の上に乗っておく。この気分がなかったら出頭には乗れない」
村瀬監督はすべての稽古に一貫して、試合と同じような緊張感をもたせようとする。
「遠間から打ち間に入っていくところの緊張感。それはお互いの意識だ。それはやり方どうこうではなく、自分の心。お互いに気で相手に『入るな』っていうくらいの気概があって初めて生まれるもの。それが合気だ。気と気がぶつかり合うことが大切。その見えない部分を大切にしよう!」
次は出鼻の小手。ここでは技術として大切なことを語りかける。
「逃げながら打ってしまうと外れちゃう。内村(良一)先生のように小手が上手い人は体が前に出ているから小手が当たる。絶対体が逃げない。面と同じ入りで小手を打てば体がまっすぐ入る。そしたら小手は当たるんだ」
最後は返し胴の稽古。ここでは出頭面、出頭の小手と攻め入りは同じである、ということを村瀬監督は強調する。
「同じ入りの中で、面が打てる、小手が打てる。だけど相手が来なかったり、タイミングが合わなかったときに、変化して返し胴。攻め勝った状態で右足が出て前で返す。だけど相手が来た時に右足を出さないで胴を打っている者がいる。一つの基盤があって、攻め入りがあっての面、小手、胴なのであって、そこを崩して知らんふりして打ってしまうのは筋違いだ。はじめから胴を打つように、横に逃げるのも全然稽古の内容が違う。前に入って、その圧力に負けて相手が出てきたらそこを返せる。それを考えて稽古しよう」
動画の最後には高校主将の雨田美七海さん、中学主将の時任心さんと、村瀬監督のインタビューを収録。村瀬監督は中学生にとっては優しくてカッコいい(部員たちからはこの発言に笑いが起こったが)、高校生にとっては厳しいという。
「自分自身が稽古して培ったものを生徒たちにどれだけ還元できるか。自分自身も学びながら生徒たちに剣道を教えていきたい」。指導方針というほど経験は積んでいないと本人は言うが、あえて言うならそれが村瀬監督の指導方針である。